老後資金の準備を始めたいと考えているフリーランスのみなさん。どのような方法で準備したらよいかお悩みではないですか?
今回はフリーランスの老後資金を運用する方法として代表的な「iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)」と「小規模企業共済」を徹底比較。どのような方に向いているか解説します。
iDeCoと小規模企業共済:7つの切り口で徹底比較
本記事では、iDeCoと小規模企業共済の特徴を「加入条件」「手数料」「運用方法」「掛金」「貸付制度」「途中解約」「節税効果」の切り口で比較していきます。それぞれの観点を総合的にふまえて、どちらが自分に合っているか意識しながら見てみましょう。
①加入条件
iDeCoの加入条件
iDeCoは60歳未満の方が加入できる私的年金制度です。国民年金の種類によって加入できる条件が違ってきます。フリーランスの方は国民年金の第1号被保険者であることが一般的なので、原則以下の加入条件となります。
小規模企業共済の加入条件
小規模企業共済は個人事業主や小規模企業の経営者・役員の方が加入できる退職金制度です。今回はフリーランスの方の老後資金のお話なので、経営者・役員の方の加入条件は割愛しますね。
iDeCoは国民年金の種類によって加入条件が定められていましたが、小規模企業共済に加入するためには「個人事業主」である必要があります。ここで注意したいのが、「国民年金の第1号被保険者イコール個人事業主ではない」という点です。個人事業主になるためには、税務に開業届を提出する必要があります。つまりフリーランスのなかでも開業届を出している方が加入できる制度なのです。
個人事業主の方の加入条件は以下のとおりです。
また、生命保険外務員や配偶者等の事業専従者(共同経営者の要件を満たしていない場合)、アパート経営等の事業を兼業している給与所得者(法人または個人事業主と常時雇用関係にある方)などは加入できません。
②手数料
iDeCoの手数料
iDeCoには「加入時・移管時」「運用期間中」「受取時」の3つのタイミングで手数料がかかります。
【加入時・移管時】
加入時または企業型確定拠出年金などからの移管時には、「加入時・移換時手数料」というものがかかります。これはiDeCoを管轄している国民年金基金連合会に支払うもので、どの金融機関で口座を開設しても一律2,829円がかかります。手数料は加入時であれば初回掛金から、移管時は移管資産から差し引かれます。
【運用期間中】
運用期間中にかかる手数料は「国民年金基金連合会手数料」「事務委託先金融機手数料」「運営管理手数料」の3つがあり、まとめて「口座管理手数料」ともいわれます。国民年金基金連合会手数料は掛金を拠出するたびにかかる手数料で、月払いであれば月額105円(年間1,260円)かかります。事務委託先金融機関はiDeCoの資産を管理する信託銀行に支払う手数料で月額66円(年間792円)です。運営管理手数料はiDeCoの専用口座を開設した金融機関に支払う手数料です。手数料の金額は金融機関によって異なりますが、月額300~400円程度、一部の金融機関では無料のところもあります。
運営管理手数料の場合でも国民年金基金連合会手数料と事務委託先金融機手数料は発生するので、月払いであれば口座管理手数料は最低でも月額171円(年間2,052円)はかかります。たとえばiDeCoに30年間加入して月額171円の口座管理手数料を支払った場合、合計金額は6万1,560円です。(年間2,052円×30年=6万1,560円)
【受取時】
受取時の手数料には給付の都度かかる「給付事務手数料」というものがあり、1回あたり440円がかかります。iDeCoには一時金で受け取る方法と、年金として分割で受け取る方法があります。一時金で受け取る場合の手数料は440円で済みますが、分割で受け取る場合はその回数分の手数料がかかります。たとえば年6回の給付を20年間かけて受け取る場合、合計手数料は5万2,800円となります。(440円×年6回×20年=5万2,800円)
小規模企業共済の手数料
小規模企業共済の加入時・運用期間中・受取時に発生する手数料はありません。ただし、加入申込み時に必要となる確定申告書または開業届の控えの発行手数料は自己負担となります。
③運用方法
iDeCoの運用方法
iDeCoは金融機関に専用口座を開設して、自ら運用商品を選んで運用します。運用商品は、運用状況に応じて将来受け取ることができる資産が変動する「投資信託」と、満期時の元本と利息が確保される「定期預金」の2種類が一般的です。
商品ラインナップは金融機関によって異なりますが、投資信託には国内株式・海外株式・国内債権・海外債権・REIT(不動産投資信託)・バランス型など投資先ごとに複数の商品が用意されています。定期預金は1種類のみ用意している金融機関が多いようです。1つの運用商品だけを選ぶこともできますが、リスクを分散させるために複数の商品を組み合わせて運用することも可能です。
iDeCoを取り扱っている金融機関のなかには、ホームページで将来受け取ることができるお金(積立元本+運用益)をシミュレーションできるところもあります。
小規模企業共済の運用方法
一方小規模企業共済は運営機関である中小機構が運用するため、自分で運用商品を選ぶことはできません。小規模企業共済では事業の廃止や老齢給付、解約など共済金の請求事由ごとに予定利率が定められています。現在の予定利率は事業の廃止(共済金A)で約1.5%、老齢給付(共済金B)で約1.0%となっています。
将来受け取ることができる共済金の見込み金額が知りたい場合は、中小機構のホームページでシミュレーションすることができますよ。
④掛金
iDeCoの掛金
iDeCoは月額5,000円から1,000円単位で掛金を自由に設定することができます。掛金の限度額は、国民年金の種類や勤務先の企業年金制度によってそれぞれ異なりますが、第一号被保険者であれば月額6.8万円(年間81.6万円)です。またこの限度額は、国民年金基金の掛金および付加年金保険料を併せた金額となります。
加入後も掛金の変更は可能ですが、「加入者掛金額変更届」をiDeCo口座を開設した金融機関に提出する必要があります。(毎年4月から翌年3月までの間で1回のみ可)
iDeCoの掛金の拠出方法は「月払い」と「年単位拠出」の2種類があります。年単位拠出とは年1回以上、任意の月にまとめて拠出できる方法です。たとえば支払いに余裕のあるボーナス月にまとめて掛金を支払うことができます。また前述のとおりiDeCoには掛金を拠出する都度かかる「国民年金基金連合会手数料」というものがあり、月額105円がかかります。月払いでは月額105円×12回=年間1,260円がかかりますが、年単位拠出を選択して拠出回数を減らすことでこの手数料を節約できます。
支払い方法はiDeCoの口座を開設している金融機関ごとに異なりますが、口座振替が一般的です。
小規模企業共済の掛金
小規模企業共済の掛金は、月額1,000円~7万円(年間84万円まで)の範囲で500円単位で設定することができます。また加入後に掛金を増額・減額することも可能です。納付方法は「月払い」「半年払い」「年払い」から選択可能。半年払いと年払いは納付月を指定できます。口座振替での支払いとなります。
⑤貸付制度
iDeCoの貸付制度
iDeCoに貸付制度はありません
小規模企業共済の貸付制度
小規模企業共済には、事業資金等の借入ができる貸付制度があります。借入金の使い道によって7種類に分類されており、それぞれ借入限度額・借入期間・返済方法・利率が異なります。借入できる金額は掛金納付月数に応じて、掛金の7割~9割となっています。利率は年0.9~1.5%と低利で借り入れることが可能です。
また経済状況などに応じた特例の貸付が実施される場合もあり、直近では新型コロナウイルスの特例措置として条件を満たした契約者に無利子で貸付をおこなっています。
⑥途中解約
iDeCoの途中解約
iDeCoは一度加入すると原則途中で解約することができません。ただし加入者が死亡した場合は遺族が「死亡一時金」、ケガや病気で所定の障害状態になった場合は「障害一時金」または「障害年金」のいずれかを受けることができます。
小規模企業共済の途中解約
小規模企業共済は解約することも可能ですが、掛金の納付期間が20年未満で任意解約した場合、解約手当金は支払った掛金の合計額を下回まわります。さらに納付期間が1年未満で任意解約した場合、解約手当金は受け取れないので注意しましょう。
ただし事業の廃止(廃業)などが理由で共済金を受け取る場合、1年以上掛金の納付期間があれば基本的に元本割れはしません。
⑦節税効果
iDeCoの節税効果
iDeCoはその年に支払った掛金が全額所得控除の対象となります。所得控除とは、所得(収入ー経費)から差し引くことができる金額のことです。掛金の分だけ課税所得を抑えることができるため、所得に応じで課税される所得税や個人住民税の節税が期待できます。
フリーランスの場合、iDeCoの所得控除を受けるためには確定申告の際に手続きする必要があります。毎年10月下旬頃に国民年金基金連合会から発送される「小規模企業共済等掛金払込証明書」を添付し、「小規模企業共済等掛金控除」として申告しましょう。
また通常は課税される金融商品の運用益もiDeCoは非課税となります。
小規模企業共済の節税効果
小規模企業共済もその年の掛金が全額所得控除の対象となり、所得税と個人住民税の節税効果が期待できます。こちらもフリーランスの方は確定申告の際に手続きする必要があり、iDeCoと同じく「小規模企業共済等掛金控除」として手続きをおこないます。
あなたはどっち?iDeCo/小規模企業共済に向いている方
前述した7つのポイントをふまえて、どのような方がそれぞれの制度に向いているか見ていきましょう。
iDeCoに向いている方
iDeCoと小規模企業共済の最大の違いは自分で運用できるかどうか。任意の運用商品を選んで積極的に将来の老後資金を増やしたい方にはおすすめです。さらに途中解約できないため、60歳まで使う必要のない余裕資金で運用できる方に向いています。
また現在会社員で企業型確定拠出年金やそのほかの企業年金に加入している方でも、独立してフリーランスになり第1号被保険者に切り替わった場合はiDeCoに移行することができます。新たに掛金を拠出せず金融商品の運用だけをおこなう「運用指図者」になることもできますが、その場合でも毎月口座管理手数料はかかるので、iDeCoの加入者となって掛金を拠出しながら運用するのがおすすめです。
小規模企業共済に向いている方
小規模企業共済の最大の特徴は事業資金を低金利で借り入れできることです。事業に関する「もしも」に備えて貸付制度を利用したい方にはおすすめです。
60歳より前に廃業する予定がある方も、廃業時に共済金が受け取れる小規模企業共済が安心です。ただし短期間での廃業は元本割れや利回りが低くなるので、その点は注意しましょう。
また自分で運用することに抵抗のある方や、掛金を元本割れさせたくない方は小規模企業共済がよいでしょう。
併用するという方法も
iDeCoと小規模企業共済は、加入条件さえ満たしていれば両方に加入することができます。両方に加入している場合でもどちらも掛金の全額が所得控除の対象となるため、節税効果が減ってしまう心配もありません。
「iDeCoと小規模企業共済のいいとこ取りをしたい!」という方は、両制度の併用も検討してみてはいかがでしょうか?
まとめ
iDeCoと小規模企業共済、どちらがご自分に向いている制度か明確になりましたか?どちらもフリーランスの方が老後資金を形成するための制度ですが、人によってどちらが向いているかは異なります。両者の特徴をふまえて、どちらを選ぶか、または併用するかを検討してみましょう。
※本記事は2020年9月15日時点の情報をもとに執筆したものです。